カルナラ篇 2007.11.29 | |
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「カルナラ?」 暗い闇から戻ってきたシザークが、仄かな明かりに照らされたカルナラを見て呟いた。 カルナラはすぐ気付き、パタンと音を立てて本を閉じ、すまなそうに笑う。 「すみません、眩しかったですか?」 「いや……お水くれる?」 「はい」 水差しから、コポコポと音を立てて注ぐと、シザークの隣に腰を下ろしコップを手渡した。覚束ない手なので、支えながら水を飲ませてあげると、上手そうに喉を鳴らす。 上下に動く喉仏を見て、食いつきたくなる衝動をカルナラは抑えた。 「もう少し明るいところで読んだら?」 「すみません、起こしてしまうと思って……」 「だったら昼間に読めよ」 「時間があれば読みたいんですけどね」 「もう若くないんだからさ」 「はぁ……」 最近のシザークは説教臭いと思う。 そのことをフィズに言うと、 「そりゃお前、夫婦は似てくるっていうだろ?」 と、笑う。 誰が夫で、誰が妻なのか。 カルナラは口に出掛かって、それを慌てて飲み込む。 どうせ、シザークが夫で、自分が貞淑な妻とでも言われるのだろう。 (間違ってない、私はシザークには逆らえない) 最近、唯一『夫』と言えるような立場であったアッチも、逆転され、どの立場からも『妻』になってしまっている。 このままでいいのだろうか……いや、よくない。 必ずまた、下克上を成し遂げてやる! 穏かな容貌の下に、小さな反乱を企ててカルナラは今日も仕事に就く。 野心家の強かな笑みを添えて……。 |
アルトダ篇 2007.10.5 | |
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「も、駄目だ……」 家所有のテニスコートで、アルトダは情けない声を上げていた。 「なんだよ、もうへばったのか?」 そう言って歩み寄ってきたのはフィズである。 「運動不足だから、休みの日に付き合ってくれって言ったのはお前だろ? 先にへばってどうするんだよ」 汗を拭いたタオルを首に引っ掛けて、フィズはジャージーのポケットを探った。 その後、煙草を部屋においてきたことを思い出し、顔を顰める。 「返す、言葉…もありません」 息も絶え絶えにようやく言うと、アルトダは座り込んでしまう。 「おいおい、そんなんじゃ子供が生まれた後、どうやって遊んでやるんだよ」 「私には私の接し方がありますから」 「子供っちゅーもんは体使って遊んでやって、ようやく満足するんだよ。凄く大変なんだぞ?」 「そ…そうなんですか?」 想像してみる。 自分のミニチュアが「遊べ」「遊べ」と、わらわらと纏わりついている姿を……。 「ありゃ大変だぞ。子育ては体力勝負だからな。レイさん一人に押し付けるわけじゃないんなら、今から鍛えとけよ」 さすがに年長者の言うことは違う。 アルトダは頷いた。 「わかりました。少尉の仰る通りですよね」 「俺は子育ての先輩だぜ? なんでも聞いてくれよ」 「あははは。頼りにしてます」 「よーし、頼っとけよ。ま、俺の場合、自分の子供じゃなくて弟妹だけど、なんもかわらないっしょ」 ニャハハとフィズは笑った。 「早く、自分のお子さん育ててくださいね」 「ぐさっ! なんて言うことを言うんだ、ガフィルダ君」 「ハッパかけてるんですよ。他人の世話ばかり焼いてないで、早く幸せ見つけてくださいよ」 アルトダはフィズの渋面を見て笑った。 「今度、どなたか紹介してもいいですけれど、胸の中の人の存在があるから、悩んでるんですよねぇ」 「え!? なによ、その胸の中の人って!」 「さぁ。さ、休憩もとったし、もう一ゲーム相手してくださいよ」 そう言って立ち上がった。 「おい、アルトダ!」 反対側のコートに向かうアルトダに、フィズは声をかける。 「情報部の人間を甘く見ないでくださいよ。とくに、この私をね」 アルトダはボールを何回かコートに弾ませると、フィズを見てにっこりと笑った。 |
タレン篇 2007.09.13 | |
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詰め所で報告書を認めていた時の事である。 例によって書類の束に埋もれていたフィズ少尉がこちらを見ていた。 詰め所には二人しかいないので、見ていたのは俺のことで間違いないと思う。 「何か?」 「ん? いんや、小柄だけど意外といい体してるなぁって思ってさ。失礼な言い方ゴメンネ」 「あ、いいえ。特に鍛えている、というわけではないんですが……」 「じゃあ、あれだ。趣味でスポーツかなんか?」 どうも退屈していたらしく、俺という話し相手が見つかり、そそくさと隣の席に座ってくる。 フィズ少尉は話好きで面白いので、しばらく付き合うことにした。 「スポーツというか、趣味でウォーキングしてるんですよ」 「へぇ、有酸素運動の筆頭株主ね」 「株…?」 「なんでもなーい。そうか、ウォーキングね。なるほど。毎日?」 「最近忙しいじゃないですか、毎日も歩けなくなって衰えてしまって。今はやっても十キロぐらいしか歩けないんですよね。毎日歩いていた頃は倍は歩けたのに……」 「じゅ……!? それだけ歩ければ十分じゃないか?」 「そうですか? 俺はもっと歩きたいんですけど」 「わ…若いっていいねぇ」 「そう、ですか?」 首を傾げている間に、お邪魔しました、とフィズ少尉が自分の席に帰っていく。 あれ? 変なこと言ったかな? 益々異様な目で見られている気がする……。 いたたまれずに、早々に書類を書き上げ、情報部へ持っていく。 そこにいたアルトダさんが、俺の浮かない顔を見てどうしたのか訊ねてくる。 理由を話したら、「なるほど」と失笑した。 「毎日二十キロは凄い距離を歩いてたんだね。私なんかインドア派だから二キロで限界だよ。一体どのくらいの時間で行って帰ってきてたんだい?」 冷静に語られ、俺は始めて知った。 自分の趣味を話して、毎回引かれていた理由を。 「ジジ臭いとか、そういう理由じゃなかったんだ……」 俺はがっくりと肩を落とし、詰め所に戻っていった。 もう、もう絶対にウォーキングの話はしないでおこう、と心に誓った―――。 |
オクト篇 2007.09.10 | |
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オクトは良く食べる。 以前は気にしていなかったが、そういう関係になってから気にしてみると…ひたすら食べている。 今日も二人で街に出てきたわけだが(デートとも言う?)、目ぼしい店を見つけると、すぐに入ってオススメの料理を食べている。 どうも食べ歩きが趣味らしい。 「ウォレスは食べないのか?」 「いや、さっき食べたし……」 「そうか。欲しくなったらやるから言えよ」 「あ、うん」 取り敢えず返事したが、本日五件目。ずぇったいに入らない。水すらもいらない。 前の店までは肉だのなんだのとへビィなものをひたすら食べて、今回はケーキを食べているオクトはとても幸せそうだ。 「美味しい?」 「あぁ、旨い。このパイの部分のさくさく感は絶品だ」 「……甘いものも好きなんだ」 「ウォレスと、肉の次にな」 上目遣いでにやりと笑われると、今度は自分が食われるんじゃないかと錯覚する。 「よ…よく食べるよな」 「この体だから、食べなくちゃもたないんだ」 それはそうだ。俺よりも二十センチは高いんだから。 ―――やっぱり食べた分だけ伸びたんかな。ちょっと羨ましい。 そんなことを思っていたら、顔に出ていたのか、 「ウォレスはもう伸びなくていいぞ」 と、オクトが言う。 「なんでだよ」 「僕の腕の中にすっぽり入るから」 「はぁ!?」 「小動物みたいで可愛い」 か…可愛い? 俺が? 小動物?? 顔を引き攣らせると、オクトは大して気にしてなさそうに言う。 「あー、今日も食べた。ウォレス、そう鼻の頭に皺を寄せているのも悪くはないが、どうせなら違う顔が見たい。これから食後の運動に付き合わないかい?」 「はぁ? 運動? 一人でやれよ」 「この運動は一人じゃ無理なんだ。ウォレスとやらなきゃ意味がない」 意味が分らず、頭の中で言葉を反芻させている間に、掠め取るような口付けをされた。 「さ、早く行こう!」 俺の腕を引っつかんで、さっさと会計を済ますと、速い足取りであっという間に目的地へ連れて行かれる。 ちょ、ちょ、ちょ! ここって、もしかしなくても!! 逃げ出そうとするが、凄い力で俺の腕を掴んで放さない。 「往生際が悪いぞ、ウォレス。痛くしないから、安心して抱かれてくれ」 満腹の肉食獣は、俺を見据えて、狡猾に笑った―――。 「オクトたんはきっと大食漢!」とカンスケさんがひたすら言うので、書いてみました。 本設定もちゃんと「大食漢」ってなってましたよ(笑) オクトたん(…)はネタ提供してくれたカンスケさんに捧げます(笑) |
フィズ篇 2007.09.09 | |
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夜勤明けの帰りだった。 フィズは城を出て、街中を歩いてから自宅へいつも戻る。 広場の角にある、おしゃれなカフェテリアの前に、大きな街路樹があり、その下で立ち止まるのが好きだった。 春には花をつけ、夏には青々とした葉が木陰を作り、秋には色付く葉を落とし、寂しそうに冬を迎える。 今日もその木の下で変わり行く街を眺めようとしていた。 しかし、今日は生憎の先客。 (しかも、カップルかよ) 心の中で毒づく。 もうすぐ四十に手が届く彼は、絶賛恋人募集中の身である。 職場の面々はどんどん結婚をしたり、恋人と余暇を謳歌したりと幸せそうだ。 しかも、国王自ら職場内セクハラを堂々と行う。 とあるブランクが途中あったが、二人の睦言を聞き始めてからもう十年。 いい加減に慣れた。 (いいよなぁ、二人は) 決して平坦ではない二人の人生だが、フィズにとってはとても羨ましい関係だ。 人生の伴侶がすぐ傍で見守っていてくれる。 それだけで十分心強い。 (早く、俺にもそういういい人と見つからないものかねぇ) そんなフィズの頭に街路樹が葉を落とし、元気付けてくれた。 (お前さんだけだよ、変わらずに俺のこと見ていてくれるのは) いっそのこと、この街路樹と結婚したい。 そう思うフィズであった。 多分、キング・オブ・不憫 |
ナスタ篇 2007.09.08 | |
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【ちょいエロを開く】 【エロを閉じる】 「秋の長雨とはよく言ったものだ」 窓の外を見て、ナスタは溜息混じりに呟いた。 「ナスタさん、雨嫌いなの?」 「嫌いではないが、こう続くと鬱陶しくてたまらん」 背後から抱きついてきた男をナスタは肘で牽制する。 「外が鬱陶しいのに、これ以上鬱陶しくさせるな」 「またまたー。本当はたくさん触られるのが好きなくせにー」 男がかるぐちを叩くと、ナスタから素早く拳が繰り出される。 避けられるけど、なんとなく打たれてみた。 音の割には特に痛くない。 やはり手加減してくれている。 男は殴られた箇所を摩りながらニコニコと笑った。 「いつ止むんだろうね」 「知らん。お前聞いて来い」 「誰に!?」 「天気の神様だ」 天気の神様? なにその『みゃあ』に続く可愛い台詞は。 ぽっかーんとしている男に、ナスタは苦笑いを浮かべる。 「お前、その神様に感謝しろよ。雨が降ったおかげでまた屋敷に呼んでもらえたんだからな」 「はっ! そうだった! 神様ありがとう! ついでにこのまま帰れなくなるくらいの大雨になって!」 空に向かって男は真剣に祈りだす。 その様子を見て、ナスタは残酷に言い放った。 「……仕度が済んだらさっさと帰れ。本当に鬱陶しい奴だ」 その後、嘘のように雨は消えた。 変わりに男が目から瀧のような涙を落とした―――らしい。 りゅうかさんの「GATTUS」から続く感じでギャグにしてみました。 |
シザーク篇 2007.09.07 | |
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情事の後、締め切っていた窓を開け、シザークは大きく息を吸い込んだ。 秋色に変化したダナヤの木々が優しい木漏れ日を落とす。 夏のぎらぎらした太陽とは違い、淡く、包み込むような光は、カルナラのようだった。 「シザーク、何か飲みますか?」 「あぁ、うん。水がいいかな」 外を眺めながら答える。 「何か見えるんですか?」 グラスを片手にカルナラが訊ねる。 「ん〜? いや、秋っていいなぁって思ってさ」 グラスを手渡しながら巻きついてくるカルナラの腕にそっと手をやると、項や耳に、一つ二つとキスを落としてくる。 「それじゃ、水が飲めないじゃん」 「飲ませてあげましょうか?」 「いいってば。少し休ませてくれよ」 くすぐったい唇を押しやって、シザークはグラスの中身を煽った。 その間も、カルナラはそっとシザークの腰を抱き寄せている。 さわっとした風が金色の髪を誘い、撫でるように頬をくすぐると、後ろからの節ばった指が丁寧にそれを正してくれる。 いいな、こういう日々も。 カルナラと一緒に得られる幸せに、シザークはそっと瞳を閉じた。 |