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SS/太陽の笑顔
太陽の笑顔
「寒ッ」
雨季の、気温がぐっと低下した朝。
護衛に就く大臣の都合で早起きをしたタレンは、その空気の冷たさに両腕に手を当てて身震いをした。
まだ暖かい毛布に後ろ髪を引かれながら真水で顔を洗い、気を引き締める。
制服に着替えるとそこにSPタレン・ウォレスが出来上がった。
「よしッ」
同室の仲間を起こさぬようにそっと部屋を抜け出す。
廊下はまた一段と寒い。
制服の下に一枚、シャツを着込めばよかったかなと思いながら歩く。
サァサァと降る雨。
あと数ヶ月はこういう状態が続く。
頼んでいた朝食を取りに廊下の角を曲がると、そこに長いものが立っていた。
ギョッとして目を瞠ると、その長いものは少し眠そうな顔でおはようと笑った。
きちんと制服を着ている。
「おはよう。どうしたんだ?」
朝早くから何かあるのだろうか。
不思議がって訊ねると、長いもの…マイル・オクトは肩を竦める。
「タレン、今日は早いって言ってただろう?」
「うん、言ったけどさ」
それが何か?
童顔の眉が潜む。
「一人でご飯もつまらないだろうから、付き合おうと思ってさ」
「……そんなんで?」
優しさが嬉しい。
タレンの頬が自然に緩んだ。
「ついでに早朝デート」
オクトはさっと手を伸ばし、タレンの手を握るとそのまま引っ張るように歩き出した。
「ちょっ、誰かに見られたら……」
奥ゆかしく恥ずかしがり屋のタレンは二人の関係を公にしたくないようだ。
だが、噂はもうあちらこちらに広まっており、本人の耳にだって届いているだろうに。
(そう言うところが、またいいんだけれど)
普段は明るく豪儀なタレンのそんなギャップ。
それをうまく丸め込んで自分のペースに乗せてしまうのも、また楽しいのだ。
「大丈夫だよ。朝早いし、動いてるのはほんの一部だから」
「い、今だけだぞ? 向こうに着く前に離してくれよ?」
頬を染めたタレンが、オクトの手をぎゅっと握り返した。
「ああ、約束するよ」
満面の笑みで返されると、その笑顔が眩しくて、恥ずかしくて、唇を尖らせてそっぽを向いた。
あんなに寒かったのに、オクトのせいで熱いくらいだ。
でもその熱さが、心地よいと思う。
「たまにはこういうのもいいと思わないか?」
並んで歩きながら聞かれた。
「たまには、だな。毎日こんなことしてたら干からびちまう」
「……なんで?」
屈みながら窺ってくるその顔は、ニヤニヤしたムカつく顔。
分っているくせに、どうしてもタレンにそれを言わせたいようだ。
タレンは雰囲気に飲まれないようにニコリと笑う。
「お?」という表情で気が緩んだオクトの太股に軽くローキックをかますと、呻くオクトの手を離しタレンは腰に手を当てた。
「分ってるなら聞き返すなよ、バーカ」
「わっ、悪かったよ。だから不意打ちは止めてくれ」
「攻撃仕掛けるのに不意打ちも糞もないだろう」
苦笑したタレンは「ハァ」と一度息を吐くと離した手をまた差し出した。
「早く行こうぜ、食いっぱぐれるぞ」
雨の合間に現れた眩しい太陽の笑顔に見惚れると、オクトはそれを掴もうと手を伸ばした。
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