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SS/太陽の笑顔

太陽の笑顔

 

「寒ッ」
 雨季の、気温がぐっと低下した朝。
 護衛に就く大臣の都合で早起きをしたタレンは、その空気の冷たさに両腕に手を当てて身震いをした。
 まだ暖かい毛布に後ろ髪を引かれながら真水で顔を洗い、気を引き締める。
 制服に着替えるとそこにSPタレン・ウォレスが出来上がった。


「よしッ」


 同室の仲間を起こさぬようにそっと部屋を抜け出す。
 廊下はまた一段と寒い。


 制服の下に一枚、シャツを着込めばよかったかなと思いながら歩く。


 サァサァと降る雨。


 あと数ヶ月はこういう状態が続く。


 頼んでいた朝食を取りに廊下の角を曲がると、そこに長いものが立っていた。


 ギョッとして目を瞠ると、その長いものは少し眠そうな顔でおはようと笑った。
 きちんと制服を着ている。
「おはよう。どうしたんだ?」
 朝早くから何かあるのだろうか。
 不思議がって訊ねると、長いもの…マイル・オクトは肩を竦める。
「タレン、今日は早いって言ってただろう?」
「うん、言ったけどさ」
 それが何か?
 童顔の眉が潜む。
「一人でご飯もつまらないだろうから、付き合おうと思ってさ」
「……そんなんで?」
 優しさが嬉しい。
 タレンの頬が自然に緩んだ。

「ついでに早朝デート」
 オクトはさっと手を伸ばし、タレンの手を握るとそのまま引っ張るように歩き出した。


「ちょっ、誰かに見られたら……」
 奥ゆかしく恥ずかしがり屋のタレンは二人の関係を公にしたくないようだ。
 だが、噂はもうあちらこちらに広まっており、本人の耳にだって届いているだろうに。


(そう言うところが、またいいんだけれど)


 普段は明るく豪儀なタレンのそんなギャップ。
 それをうまく丸め込んで自分のペースに乗せてしまうのも、また楽しいのだ。


「大丈夫だよ。朝早いし、動いてるのはほんの一部だから」
「い、今だけだぞ? 向こうに着く前に離してくれよ?」
 頬を染めたタレンが、オクトの手をぎゅっと握り返した。


「ああ、約束するよ」
 満面の笑みで返されると、その笑顔が眩しくて、恥ずかしくて、唇を尖らせてそっぽを向いた。




 あんなに寒かったのに、オクトのせいで熱いくらいだ。




 でもその熱さが、心地よいと思う。






「たまにはこういうのもいいと思わないか?」
 並んで歩きながら聞かれた。
「たまには、だな。毎日こんなことしてたら干からびちまう」
「……なんで?」
 屈みながら窺ってくるその顔は、ニヤニヤしたムカつく顔。


 分っているくせに、どうしてもタレンにそれを言わせたいようだ。


 タレンは雰囲気に飲まれないようにニコリと笑う。
「お?」という表情で気が緩んだオクトの太股に軽くローキックをかますと、呻くオクトの手を離しタレンは腰に手を当てた。


「分ってるなら聞き返すなよ、バーカ」
「わっ、悪かったよ。だから不意打ちは止めてくれ」
「攻撃仕掛けるのに不意打ちも糞もないだろう」
 苦笑したタレンは「ハァ」と一度息を吐くと離した手をまた差し出した。
「早く行こうぜ、食いっぱぐれるぞ」


 雨の合間に現れた眩しい太陽の笑顔に見惚れると、オクトはそれを掴もうと手を伸ばした。

HAPPINESS

HAPPINESS

「クリスマス?」
「そう。タッキーのいた世界では、このくらいの時期にケーキとか肉とかご馳走を身近な人と食べて、誰だかの誕生日を祝うんだって」


 タッキー


 その名前にオクトは苦虫を噛み潰したような顔をした。
 あぁそうだっけ、と思い出してタレンは反対に笑い出す。


 タッキーと言うのは乾季の頃にやってきたコールスリ・カルナラ中尉にそっくりな男のことだ。
 そっくりなのは外見だけで中身は180度、とまではいかないがまぁそれに近い程度に反対の、明るく快活な青年だった。
 なにも考えてないような豪胆な人物に見えて繊細な心をもち、さりげない気遣いのできる男。


 昨日部屋で荷物の整理をしていたら顔がパンでできている人形がでてきて、タレンの頭に彼との記憶が甦ってきたのだ。


 そのタッキー、酔ってオクトにキスしてきたことがあり、オクトにしてみれば苦手(敢えてこういう表現にしておく)な中尉に似た顔が近付いてきたわけだから、彼の存在はオクトの中では地雷中の地雷と言えよう。




「誰だかの誕生日ってみんなで祝わないといけないのか?」
「さあよくわからないけど、そういうことをして過ごすって言ってたんだ」
「いつ?」
「いつ…って言われても…確か中尉の母上にお会いしたとき…だったかなぁ」


 随分前の話だから詳しくと言われても中々思い出せない。


 だけど、彼がこういっていたのだけはしっかりと覚えていた。


「好きな奴と過ごすクリスマスが世界で一番幸せって言われてんだ。親や兄弟、友達とか、恋人同士とか…タレンさんにもいんだろ? だったら一緒に祝ってみなよ。楽しーぜ?」


 恋人。

 それにオクトが当てはまるかは分からない。
 でも好きであることには間違いないと思う。
 好きでなければ、これほど彼の行動が気がかりにならないはずだから。



「まぁ僕としてはタレンと一緒にいられるのならば何でもいいけど」
 オクトはニヤリと笑ってタレンの肩を掴んだ。
「いつクリスマスするんだ?」
 耳の後ろに唇を寄せられて思わず体が震える。
 優しく吸われると、甘いものが這い上がってきた。
「こ、今度……」
 それを言うのも立っているのもやっとで、タレンは目じりに涙を溜めてオクトの腕にしがみ付いた。
 クスリと笑われて、その柔らかな空気だけでも感じてしまう。
「可愛い」
「可愛くなんかっ……ンンッ」
 滑る舌で耳を嬲られながら低い声で囁かれた。楽しみにしている、と――。








 約束の日。
 待ち合わせは外だった。
 昔はすっぽかされたりしたっけ、と思いながら建物の側壁に背中を預けていた。
 ダナヤは雨季の最中。
 今はあがってはいるが直ぐに空は泣き出すだろう。
 ぼんやりと物思いに耽っていると視界の端に長身が入ってくる。赤茶色の巻き毛が雨で湿気で少し広がっていた。
 タレンが手を上げると足早に寄ってきてニコリとされる。こういう何気ない表情にタレンは弱かった。


 オクトはタレンと肩を並べると手にしていた袋を手渡した。
「え? なに?」
「プレゼント。クリスマスにはこうするんだそうだ」
「えっ? そんなことタッキーは一言も……あ! まさか……」


 少し前に耳に入ってきたことを思い出す。


 コールスリ中尉とマイル・オクトが一触即発。


 タレンがまさかまさかと呟いていると、オクトが口をへの字に曲げて息を吐いた。
「タレンに喜んでもらおうと思って態々頭を下げたんだから、喜んでくれよ」
 そんな恩着せがましく言われてもと普段なら噛み付くだろうに、なぜか涙が出そうになる。
「……なんで泣きそうなんだ?」
「う、るさい」
 態々。
 そう態々してやったという行為なのに、コレほどまでに感動するのは何故だろう。
 自分のために苦手(以下略)な中尉に頭を下げてタッキーの棲む世界のことを聞いてくれたのだ。
 袋を持つ手に力が篭る。
「お…俺、知らなかったから、何も用意してないよ」
「いいよ。僕がタレンに喜んでもらいたかったんだから」
「……うん」
「もし、タレンが何かをプレゼントしてくれるというのなら……」


 君が欲しい。


 素直なタレンの言葉は降り出した雨にかき消されることはなく、オクトの耳に届いた。










 周りが見えないような雨の中、連れて行かれた場所で熱く口付けを交わす。
 息が上がりそうな激しいキスだった。
 キスだけで、キスだけで前が膨れて痛くなっていた。
 自分のどこにこんな情熱が隠されていたのだろうとタレンが不思議に思うほどキスに夢中になっている。積極的に舌を絡め、オクトを求めた。
「今日のタレン、凄い……」
「ハァ……ッ」
 唇が離れると唾液が糸を引き、柔らかに煌く。
 雨のシャワーが外界との自分たちのいる空間を隔てているせいだ。
 服にかかる指を見ながらそう思った。
 自分もオクトの服に触れると彼は少し驚いた顔をしたが、何も言わずに黙って指を動かした。
 程よく筋肉の乗った、若い体。そこに触れ、抱きしめながらベッドに押し倒した。


「重っ」
 思わず出たタレンの言葉に「色気がないな」なんて顔をしながらオクトは体を入れ替えた。
 こうすれば重くない、と耳元で囁き、そのまま八重歯で甘噛みするとタレンが小さく鳴いた。
 滑らかな背中をすべり、手が丸みのある尻を撫ぜる。
「ふっ……」
 息を漏らすタレンのなんと無防備なことか。
 若い体は仰け反りつつも素直に快楽を受け入れていた。
 いつもの恥ずかしさからくる憎まれ口は噛んだ人差し指に封じ去れている。
 首筋に舌を這わせ、胸の飾りをつまみ、そして隆起する下半身に触れると崩れ落ちそうになる。
 自分の胸の上に両手を付かせ頑張るように言うと、オクトは前と後ろを同時に触った。
「はぁ…ん……」
 最近、タレンの体は随分と柔らかくなったように思う。
 昔はずっと硬いままであったのに、最近は触れると解けていくようだ。
 それほどオクトに見も心も開いているのかと思うと嬉しくなる。
「好きだよ」
 その言葉に、ゆっくりと頷かれる。
 ぼやけた瞳がオクトを見て笑ったような気がした。


 タレンの先走りとオクトの唾液で塗らした指が後ろを犯す。
 衝撃に一瞬だけ体を硬くしたが、彼のペースで動かしていくと、ゆっくりと解れていった。
 オクトは自分の中にも随分と余裕が出てきているのだと、そこでわかった。昔は欲しいと思ったらその衝動のままに行動していた。だが、タレンと会ってから…タレンと出会えたから、人としても成長できたのだと思う。


 自分の体を震えながら支える腕を手前に倒し、完全に自分の上に体を乗せてしまうと、指を増やしていった。


 タレンが怯えないように、一本一本慎重に。


「あっ、あっ、も…やだ…おかしく、なるっ……」
 与えられる快楽はタレンには強いようで、オクトの肌に爪を立てながら必死で腰を捩っていた。快楽から逃げたいけれど、逃げてもまたそこに快楽があるわけで、タレンの目じりにはうっすらと涙が滲んだ。


「タレン、もう、いい?」


 このむず痒い快楽が終わるのならば。


 タレンは必死で首を縦に振り、「お願い、マイル」と縋った。





 決して並みとは言えない、オクトのモノを自分の体重を借りて受け入れようとしていた。
 恐いと思うのに、目の前の赤茶色の瞳が湛えている優しさに絆されてズリズリと彼を受け入れていた。
「んっく……」
「息詰めないで」
 両腕を使って上半身を起こし口付ける。その身にタレンは縋りつき、悲鳴を上げそうになる唇を唇で塞いできた。
 その気持ちが嬉しくて、幸せで、愛しくて。
 クリスマスと言うそのイベントを教えてくれたタッキーにすら感謝したくなる。
「タレン、タレン……」
 熱に浮かされて名を呼ぶと自分の身を抱きしめる手に力が入った。
 

 タレンの中に全部納まってしまうとゆっくりとオクトはタレンの体をゆすった。
「ぁ…ンンッ……」
「平気そう?」
「聞、くなよ……」
 涙ながらに睨まれても可愛いと思うだけで、オクトはタレンにはばれない様に小さく笑った。


 体をゆする動きも、下から突き上げる動きも、解けてきた体には十分なようで、たっぷりと想いを注ぎ込む。
 時折痛くないかと問うと、何度も頷いて大丈夫だと返してくれた。
「好きだよ、タレン。好きだよ……」
 この健気さに胸を打たれ、体を反転させて優しく組み伏せた。
 ようやく背中に安定が戻ってきたタレンの足を大きく開きながら胸につくように折り曲げ、再び自身を後ろに宛がうとオクトは一気に押し入った。
「ンーーーー!」
 衝撃に背筋を反らせ、必死にシーツを掴む。
 だがそれ以上に快感は強く、自分からもっといいところを付いて欲しくて腰を揺らめかせた。
 今日の自分はどうかしている。
 頭の隅でそう思いながら、タレンは目の前の巻き毛を見ていた。
 求められる唇の柔らかさ。
 舌の熱さ。
 荒々しい息。
 全て自分を欲しているオクトのものだった。
 自分が、誰かに強く望まれているということさえも快感だ。


 うわごとの様になども名前を呼ぶと、そのたびに唇が落ちてくる。


 口に。
 瞼に。
 首筋に。


 最初からは考えられないほど優しいセックスだった。




「タレン……もう、限界だよ」
「うん、うん……」


 ただ、頷くだけ。


 もう、自分は何回も達していて、それでももっと欲しくて。




 愛している。




 その言葉の後に来た歯の食いしばるような小さな喘ぎに、もう出ないと思っていたタレンもまた限界を感じて――。




 最後の声はお互いの唇が食んでいった。






 そのまま情熱的なキスを繰り返すと、オクトはタレンの首筋に額を落とした。
 柔らかな巻き毛がむず痒くて、顎で分けやると、タレンは彼の体を抱きしめて、そのまま意識を手放した。


 極上の倦怠感だった。










 夢の中で竜紀にあった。




 Merry Χmas!
 ん? これ? クリスマスの掛け声だよ。
 意味なんかしんねーよ。
 小さい頃からそう言ってるからそう言ってるだけだよ。
 タレンさんも好きな人とクリスマス過ごせたんだろ?
 その相手ってオクトさんだろ?
 すっげー幸せそうな顔してんだもんよー。
 俺も朱雀と一緒に過ごしてるよ。
 超幸せ。
 悪いけどこれさ、惚気だから。
 幸せなときは幸せな顔しないと、それがどっかいっちゃうんだぜ?

 あんたもこっちのタレちんと同じでちょっと素直じゃなさそうだから一応言っとくよ。
 俺とバイバイしたら一番に言えよ。
 もっと幸せになるぜ?








 そこで目が覚めた。
 ぼやけた視界にオクトの顔が映る。
 彼の腕の中で眠っていたようだ。前髪が邪魔そうだなと思って指で払ってやると、オクトが目を開けた。
「起きたのか?」
「ん……」
 温もりが離れていきそうで、タレンは慌てて額を胸に押し付ける。
「タレン?」
 不思議そうな声。
 でも嬉しそうな声。


 そうだよなタッキー。目が覚めたら言わないとな。


「マイル」
「ん?」


 見上げると幸せそうな顔。
 タレンも微笑んだ。










 Merry Χmas!

SS/いい夫婦の日

「いい夫婦の日?」

「そう、いい夫婦の日」
 なんだそれ。と言わんばかりにタレンが眉を顰めた。
「つまり、僕とタレンの日ってことだよ」
「はぁ?」
 訳がわからず呆れたタレンは脳内でその『いい夫婦』が自分たち二人を指していることを結び付けるや否や、足を振り上げた。
 それが飛んでくるのを間一髪で避けると、オクトはその足をがっちりと掴んで抱えた。
 ニヤリと笑うや否や、それを高々と上げ、タレンのバランスを奪う。
「うわっ!」
 あっと言う間に空が回り、自分は石造りの天井を見上げていた。
「隙あり、ってヤツだな」
 自分の上で四つ這いの形で跨るオクトは上機嫌で自分の制服のタイを引き抜いた。


「痛くしないけど、保険の為にね」
 そう言うと、器用に手首と足首を結んだ。
「ちょっ!」
 このシチュエーションは過去を思い出す。
「痛くしないっていっただろう?」
 笑顔のまま首筋を舐め上げた。
「うっ」

 ゾクリ。


 あの知っている感覚が這い上がる。
「ちょ、やめ…ろよ」
「暴れないでくれよ、暴れたら…もう片方も縛らなくちゃならないからね」
「や…だよ、やめろよ!」
「ホントに?」
 制服の前を割って直に肌に触れると、すっと指を滑らせる。
 小さな吐息とともに、首が仰け反り、決して嫌ではない顔が覗く。

「ほら、ね」
「ンッ……」
 仰け反った首筋を舐め上げながらオクトが笑った。
「考えないで、流されて……」
「マ、マイル……」
 タレンの空いた手がオクトの襟首をぎゅっと掴んだ。
「……痛く、するなよっ」
 タレンの顔は真っ赤で、涙目だった。そんな彼を愛しく思う。


「勿論。懸命に努力する」




 そして、懸命に努力してた結果は…言うまでもなく、オクトの目の周りについた青あざは一週間ほど経ってようやく消えたらしい。

温度差 3 【完結】 18禁

 唇を甘噛みされて、その快感に震えた。
 
 キス。

 たかがキス。

 されどキス。

 唇を合わせるだけで下半身に血液が集中するなんて……。

 少し波間を彷徨っていた俺は、ごそごそとズボンからシャツを引き抜かれる感触で我に返った。

「ちょ…マイルッ」
「少しだけ、少しだけタレンを感じさせて」
「待てって」
 手を持って制すると、寂しそうな瞳が降ってくる。

 そんな顔されちゃ、文句が、言いにくい……。

 俺は再び抱きこまれて、マイルのペースにはまっていった。

 木の幹に背中を預けた姿勢でなすがままにされる。
 少しだけ、少しだけだから、と自分に言い聞かせながら、マイルの唇を受け止めていた。
「フッ……」
 首筋に下がった唇の感触で思わず息が漏れる。
 マイルしか経験ないからわからないけど、うまいのかなぁ……。

 でも、デリカシーはなさそうだ。

 今までも、そうだった。

 なのに、すっかり前のボタンを外さ、肌をむき出しにした俺に「寒くないか」なんて何度も尋ねてくる。
 調子が、狂う。

「へ、いき……暑い、くらい」

 そう返すのが精一杯で、俺は彼の柔らかい髪をぐっと掴んだ。
 何かにしがみ付かなければ、何処かに浚われてしまいそうで怖かった。

 前にも何回かこういうことはあって、マイルの誕生日のときも…その、最後までして、そして今回。
 なんかゾクゾク感が増えているというかなんていうか……。
 鎖骨のところを舐められて、吸い付かれて、息も荒くなるし、下半身も熱くなる。
「こっちも……」
 服の上からなぞられて、首を反らした。
 先ほどより強い快感が欲しくて、「少しだけ」なんて口走ってしまう。
 恥ずかしいけど、俺だって男だし、こうなったからには出したいって思うから……。

 慣れた手つきでベルトを外されて、前を開けられて、取り出される。
 乾いた空気に触れて、少し震えた。

「僕のも」
「う、うん……」
 同じように前を寛げて……戸惑う。
「タレン?」
 えぇいままよ、で取り出して、太い竿を掴んだ。
「ン……」
 鼻に抜けた声。
「気持ち、イイ?」
「ああ、凄くイイ」
 もう一度キスを求められて、お互いを擦って達して終わり。
 
 

 だと思ってた。

 だけど、なんか、ウシロがむず痒くなって来るんだ。

 一度そこで感じた経験があるからだろうか。

 他の刺激が欲しくて、身体の中を虫みたいのが駆け巡ってくる。
 そんなことを知ってか知らずか、空いた手で俺の尻をやんわりと撫ぜてくる。
 でも、欲しいのは、欲しい刺激はそこじゃなくて……。

 思わず涙が出た。
 いつの間にか自分の身体が、自分のものじゃなくなった感じがして、情けなくて。

「ご、ごめん。いやならもう…触らないよ」
「ち、ちが……」
「……タレン?」

 滲む涙を吸い取られてながら、後で目を冷やして置くように言われた。
 フィズ少尉に悟られるだろうから、その助言はありがたく受けておく。

 宥められるようにキスをまたされて、勢いを失わない俺を擦られて……。
 でもやっぱり欲しい刺激は貰えなくて。
 どうしたらこのムズムズは消えるんだろうか。
 
 俺が悶々しているとオクトが言いにくそうに聞いてくる。
 
 身体は勿論だ、と言うのだけれど、何故だか大きなしゃくりがでた。
「どうにかしてくれよ、馬鹿ヤロー……」

 中途半端にズボンを下ろされて、マイルに抱きついたままウシロを弄られる。
 指を入れられたり、周りを擦られたり、色んなやり方で翻弄される。
 俺はマイルを握ったまま、陸に上げられた魚のように口をパクパクさせるだけだった。
「ンゥ……」
 入ってくる感覚よりも、抜くときの方が凄い。
 なんだろうと思ったら、少し指を曲げているみたいで、えっと、中に引っかかって……それが刺激に……ごにょごにょ。
 マイルは俺が反応するのが面白いようで、それを何度も繰り返す。
 一度圧迫が増えたと思ったら、指が増やされて、それに慣れたと思ったら、また指を減らされて、喪失感に泣いて……。

 すっかり、エロい身体に変えられてしまったようで……悔しい。

「タレン、あんまり強く握らないでくれよ」
「あ、ごめ……」

 耳元で「出ちゃうから」と言われたら、頬を染めるしかない。
「可愛い、タレン。すっごいエロイ」
 お前の声のほうが十分エロイ、そう言い返したいけれど、口がもごついてしまう。

 マイルはそのまま俺の膝に手をかけた。
 あっという間に片足をズボンから抜かれて抱えられる。

 丸く熱いのがウシロに当たって、息を呑んだ瞬間にデカイのが入り込んできた。
「~~~~ッ!!」
 マイルの制服の襟辺りを噛んで声を堪える。
「い、きなり……」
「ごめん、我慢できなかった。痛みは?」
「ばかやろ……」
 涙ぐんだまま睨みあげる。
 その顔は逆効果と少し前に言われたことを思い出したけど、そんなことどうだっていい。
「落ち着くまで待つよ。だから蹴りだけは勘弁してくれ」
 そう言われるとやりたくなる。
 だけど俺もこの中に溜まったムズムズと熱をどうにかして欲しいから、ぎゅっとしがみ付く力を強めるだけにした。
 ハァハァとたくさん呼吸をして自分を落ち着ける。
 ありがとう、とぶっきらぼうだけど優しい声が耳に届いた。

「あ…い…ぁ……」
 やっぱり、入れるときよりも抜くときの方が気持ちがいい。
 衝撃がそこからビリビリとくる。
「気持ちよさそう」
 頬に愛おしそうに唇を受けた。
 見やると、マイルも眉根を寄せて気持ち良さそうにしている。
 その顔を見たら、自分の中で何かが融けたような気がした。
 身体もドロドロになって、そのドロドロにマイルの堅いのが突き刺さってくる。だから余計にその感触がリアルに伝わった。
「マイ…マイル……」
 がむしゃらにしがみ付いて支えてもらうけれど、マイルももう限界で……。

 ごめん、と謝られて、身体を反転させると、先ほどの柔らかい布とは違う、堅く痛い木の幹に縋り付く。
 
 振り向いた瞬間、先ほどよりも奥に楔を穿たれて、顎が反れる。
 俺の背中にぴったりと重なって、耳元に熱い息が吐かれる。
 名前を熱く、何度も呼ばれては燃え上がらないわけもなく……。

「あっ、あっ……」
「くっ……」
 前を擦られて追い上げられて、ギュッとマイルを締め付けると耳元で息が詰まった。
 そうすると中のマイルが太く感じて俺も、やっぱり限界。

「も…でる……」
「僕もだ」

 それからは出すことだけしか考えられなくて、自然と腰が動いた。
 恥ずかしいと感じることさえもなく、夢中だった。

「……んっ」
 耳元で掠れた声を聞いたとたん、俺も精を吐き出した。
 中で脈打つモノの硬度がゆっくりとなくなっていく。

 耳に愛してると熱っぽく囁かれ、ダランと首を下げたまま僅かにだけ頷く。

 疲れた。

 いつもみんなこんな全力投球でセックスをしているのだろうか。

 ずるりと膨張してなくても大きいものが出て行くと、中から一緒にマイルの吐精物が落ちてくる。
 その感触の悪さに、わわっと声を上げて、腰を下げた。
 何故か内股になる……。

「夢中になってつい」
 あはははと笑うマイルに腹が立った。
「でも、タレンも夢中だっただろ?」
「うっ……」
「次は気をつけよう」

 まったくもってムードのかけらもなく、マイルの持っていたハンカチで拭われていく。
 カッコ悪い。
 消え去りたい。

 冷静になればなるほどそういう思いで溢れる。

「こんなところでするなんて……」
「うん、もうやめよう」
「絶対だぞ?」
「うん、絶対だ」

 立てる? なんて何事もなかったような顔で言われる。
 なんか俺とは温度差が違う? と改めて思った。

 ずっとマイルが熱く、俺のほうが冷たいと思っていたけど実は逆なんじゃ?

「なんかムカつくっ!」
「え?」
 いそいそとズボンを上げて顔を膨らませた。

 俺のほうがマイルの事を好きだなんて、悔しい。

 絶対立場を逆転させてやることを誓う。

「タレン、どうしたんだよっ」
 そう悲しそうな犬みたいな顔で追ってくるといいさ。

 ……じゃないと、恥ずかしくってどうしていいかわからないからさ。
 

 唇を尖らせたら、俺の気持ちを察してくれたマイルの唇が言葉と一緒に降りてきた。

 ……バーカ。

 呟かれた言葉に少し気持ちを浮上させた。

 なんか、全部見透かされてる気がする。でも、そういうのも悪くないかな、と思う最近の俺だった。

 
 ゆっくり、一歩ずつ。

 歩めているかな?

 
 ……そうだと、いいな。

                           終わり

温度差 2

『もう少し話をした方がいいと思うんだ』

 真剣な顔のタレンにこういわれたのが二週間前だった。

 それから、タレンとはあまり会うことの無い生活を送っている。
 別に別れたとか、気まずくなったとかではない。

『もっとお互いをよく考えることがあるはずだ』

 そう言って頑固に僕の言葉を突っぱねるタレンに合わせることになった。

 僕としては、かなり考えて(……考え過ぎて頭がグチャグチャなってあの行動に出てしまったこともあるのだが)いるのだが、タレンには僕はまったくタレンの事を考えていないらしい。

 なので、ここのところタレンに会うのは仕事上の繋がりだけだ。

 久しぶりにあうと、やっぱりタレンは可愛くて、まっすぐで、少しまぶしい。
 そこがやっぱり好きだな、と思う。

 気持ちがあればカラダなんて、とタレンはあの時言ったが、気持ちもカラダもすべて僕のものにしたい、というのはただの独りよがりなのだろうか。
 男だったら、そう思うべきじゃないだろうか。

 タレンは恋愛初心者と言うことを盾に、逃げているだけのような気がしてならない。

 そんなこと考える僕の気持ちは、重いのかな、やはり……。

 過去を思い出して憂鬱な気持ちになった。

 仕事をしていても、何をしても考えるのはタレンの事だけだった。
 お陰でしなくてもいい凡ミスばかりしてしまう。

 頭の悪い上司に怒られて、湧き上がった怒りを静めようと廊下に出た。
 無意識にタレンを探す。
 もう少しで一階のあの廊下を通るはずだ……。

 大臣と歩くタレンの体が小さく見えてくる。

 僕は強く念じた。

 向け。
 こちらを向け。
 こちらを向いてくれたら、また頑張れる。

 
 しかし、それも空しくタレンはさっさと通り過ぎ……僕は自分のやってることに馬鹿らしくて手すりに背を向けた。

 相当憮然とした顔をしていたのだろう。
 僕の顔を見てびっくりして逃げていく奴がいる。
 フン。
 自分でも落ち込むくらいバカな行動だったんだ。それを思い知らせてくれるなよ。

 溜息をつきつつ、僕はもう一度タレンが消えていった先を見る。

 すると……いた。
 
 呆れたような顔をした彼が、僕を見ていた。
 

―――バーーーカ。

 そう唇が動いて、最後に笑ったように見えた。

 僕は手すりから身を乗り出して、同じように唇だけで返す。

 一瞬きょとんとした顔のタレンが、やっぱり呆れたように笑った。

 その日の夜、僕はタレンの部屋を訪れた。

「なんか久しぶりすぎて、緊張するというか……」
 落ち着かないそぶりで彼に言うと、タレンに馬鹿にされ、小突かれながら、僕らは人気の無い逢引に適した場所(と思っているのは僕だけ)に出た。

「マイルと話すの、本当に久しぶりだな」
「ああ」
「相変わらずミスばっかりしてたんだって?」
 
 ちっ。アイツか。おしゃべりめ……

 僕が舌打ちをすると、コロコロとタレンは笑った。

「成長しないな」
「……タレンのせいだろ? タレンの事考えすぎたからこうなったんだ」
「仕事中ぐらい忘れろよ」
「無理。僕の中での優先順位はっ……」
 言いかけて僕は堪らずにタレンを背中から抱きしめた。
 ビクリとタレンの体が強張るのがわかる。
「離れれば離れるほど、タレンへの想いが募るんだ……。タレンの気持ちもわかる。だけど、僕の気持ちも理解してくれよ」
「マイル……」
 手がそっと僕の腕に触れて、二、三度軽く叩かれる。

「えっとな……そのままで聞いてくれよ?」
 腕の中のタレンの温度が、少し上がる。
「俺も…さ。そのさ、知らないけど無意識にお前を探してた」
「……!」
「廊下に出るとマイルの姿探すの癖になっちゃったみたいで、大臣に『なんか変な気配でもあるのか?』って聞かれちゃったよ」

 馬鹿だよな。

 暗闇でタレンは苦笑いする。
 僕は逸る気持ちを抑えて、タレンをまた強く抱きしめた。

「マイルの鼓動が、早い……」
「当たり前だ。好きなやつからそんなこと言われて興奮しないヤツはただの不感症だ」
 
 整えられた襟足に顔を埋める。

「俺も……」
「うん、ドキドキしてる。正常だ」

 きっぱりと言ってやると、ようやくタレンはこちらを向いて、僕に赤い顔を見せてくれた。

「本当に変わらないよな。相変わらずだよ」
「僕は、僕だからな。これでも丸くなった方だと思うよ……?」

 唇を近付けると、瞼が静かに落ちる。

「好きだ……」
 言葉を吸い込む唇が、優しく震えた……。

温度差

 休みの日には、どちらかの部屋で過ごすことが多い。
 今回は、マイルの部屋にいる。

 本を読んだり、行われているイベントの話や、同僚の話。
 全てが他愛のないことばかりだ。だけど俺はその他愛のないことの気楽さがとてもいい。何と言っても恋愛初心者だから。

「マイル、何見てるんだ?」
「フィズ少尉から借りた本」
「へぇ……あの人どんな本を読むんだ?」

 あのマイルが、フィズ少尉にはかなりなついている。

 そう前から思ってはいた。
 組み合わせとしては意外だが、まぁあのフィズ少尉の性格ならばありえなくはないかな、と脳裏に少尉の顔を浮かべながら本を覗き込む。

「ゲッ……おま……」

 妖艶な女性が、全裸でポーズを決めている。

 俺は見る見る間に顔が火照ってくるのがわかった。
 見るに耐えない写真ばかりだから……。

「そっ、そういうの見るんだ……」
「まぁたまには」
 そういえば、彼がノーマルだったことを思い出す。
「タレンは見ないの?」
「みっ、見ない!」
「一回も見たことない?」
「見たことないわけじゃないけれど……そこまで露骨なのは、ちょっと……」

 マイルがニヤリとした。
 それを空気で感じ、俺はギクリとする。
「恥ずかしいんだ」
「そんなことないっ」
「じゃあ一緒に見よう」
 マイルは俺の手を、彼が寝っ転がっていたベッドの方に引っ張る。
 情けない声を上げて、為すがままに彼のひざの上に乗せられた。
「ちょっ……」
「いいから、いいから」

 いや、全然良くないから。

 子供をひざに乗せて本を読む父親のように、マイルはページを捲る。

 うっ、なんで、ここまで、凄いんだよっ……。

 俺はあえて見ないように少し斜め下を向いていた。
 それを知ってか知らずか、低い声が機嫌よさそうに鼻歌などを歌っている。
 その中にページを捲る、紙の音が静かに聞こえた。
「見ないの?」
 吐息がくすぐる様に、俺の耳にかかる。
 わ、わざとだな、コイツ!
 と、すぐに思った。
「一人で読めよ!」
「やだよ、面白くない」
「ふたりで読むような本じゃないだろ?」
「やだ。タレンと読みたい」
「じゃあ! じゃあこの手をどかしてくれっ」

 いつの間にか俺の内腿に手が置いてある。
 アソコに触れるか触れないかの、微妙なポジションで……。

「それもやだ」
「おーまーえーなぁ」
「どかしたらこうやって悪戯できないだろ?」
「あっ、コラッ」
 マイルの指が俺のアソコをズボンの上からさすりだした。
 かっ、感じなきゃいいんだろうけど、なぜか反応してしまう。

 快楽に弱いのだろうか……。

 マイルは調子に乗って俺のズボンの中へ手を入れてくる。
 今度は下着越しに触れられて……瞬時に充血した。
「適度に抜かないと、身体に悪いよ?」
 そのニヤニヤした声がムカつく。
 だけど、触れられるたびに体から力が抜けて、抗えない。
「んっ…ん……」
「本の中の誰よりも、タレンの方が可愛い」
「かわいくなんかっ……」
「その意地っ張りなところも、可愛い」
「だ…からっ……」
 直に触れられて、羞恥心に体が震えてきた。
「もっ……」
「イきそう? イってもいいよ……」
「もう……」
 やめてくれぇぇぇぇぇ!
 身体を引き離そうと腕を振ったら、見事にマイルの顎にジャストミートした。
 一瞬、「あっ」と思ったけど、自業自得だよ、フン!

 顎を押さえてベッドに倒れ込むマイルからさっさと離れて、俺は立ち上がった。
 あっという間に平常に戻った部分をきちんとしまいこむ。
 ちょっと湿ってて気持ち悪い。
 部屋に戻ってシャワーでも浴びよう。

「じゃあマイル、もう今日は一緒にいる理由もないし、部屋に戻るから。また、明日な」

 にっこりと笑い、お大事に、と部屋を後にする。
 
 そしてドッと思い溜息をつく。

 いつもこれだ。

 最後はコレだ。

 ……もっと有意義な休日を過ごせないものだろうか。

 俺とマイルとは、その、付き合うという行為のあの部分が根本的に違う。

 やっぱり恋愛初心者が、あのマイルと付き合っている、と言うこと自体間違っているのではないだろうか。

「でも、結構優しいし、趣味だって合うし、アレの温度差さえなければ……」

 再び溜息をつく。

「どうにかならないかなぁ、アレ……」

 呟いたとき、俺を呼び止めるマイルの声が聞こえた。
 振り返ると、顎が赤い。
 顔は捨てられた犬のような顔をしている。

 ちょっと胸がちくりと痛んだ。

 一度沸いた情は、中々捨てられない。
 捨てる決定打もない。
 だけど、だけどやっぱりあの行為は、受け入れるのに時間がかかりそうだ。

「なぁ、言葉通じる?」
「は?」
 
 マイルは怪訝そうな顔をする。

「もう少し話をした方がいいと思うんだ」

 俺はこの恐竜のような男と、なんとか会話してみようと思った。
 
 俺たちの付き合い方について。

 逃げてばかりじゃやっぱり駄目だよな。歩み寄らなきゃさ。

 嫌な奴、と思ったことはあるけれど、決して嫌いだとは思ったことはないマイルを、俺は見つめた。
 

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