「いい夫婦の日?」
「そう、いい夫婦の日」
なんだそれ。と言わんばかりにタレンが眉を顰めた。
「つまり、僕とタレンの日ってことだよ」
「はぁ?」
訳がわからず呆れたタレンは脳内でその『いい夫婦』が自分たち二人を指していることを結び付けるや否や、足を振り上げた。
それが飛んでくるのを間一髪で避けると、オクトはその足をがっちりと掴んで抱えた。
ニヤリと笑うや否や、それを高々と上げ、タレンのバランスを奪う。
「うわっ!」
あっと言う間に空が回り、自分は石造りの天井を見上げていた。
「隙あり、ってヤツだな」
自分の上で四つ這いの形で跨るオクトは上機嫌で自分の制服のタイを引き抜いた。
「痛くしないけど、保険の為にね」
そう言うと、器用に手首と足首を結んだ。
「ちょっ!」
このシチュエーションは過去を思い出す。
「痛くしないっていっただろう?」
笑顔のまま首筋を舐め上げた。
「うっ」
ゾクリ。
あの知っている感覚が這い上がる。
「ちょ、やめ…ろよ」
「暴れないでくれよ、暴れたら…もう片方も縛らなくちゃならないからね」
「や…だよ、やめろよ!」
「ホントに?」
制服の前を割って直に肌に触れると、すっと指を滑らせる。
小さな吐息とともに、首が仰け反り、決して嫌ではない顔が覗く。
「ほら、ね」
「ンッ……」
仰け反った首筋を舐め上げながらオクトが笑った。
「考えないで、流されて……」
「マ、マイル……」
タレンの空いた手がオクトの襟首をぎゅっと掴んだ。
「……痛く、するなよっ」
タレンの顔は真っ赤で、涙目だった。そんな彼を愛しく思う。
「勿論。懸命に努力する」
そして、懸命に努力してた結果は…言うまでもなく、オクトの目の周りについた青あざは一週間ほど経ってようやく消えたらしい。